つながりをつくる
栗本 淳平
2021年入社
社会学部社会政策科学科 卒業
コロナ禍が2年目に入った2021年春、栗本淳平はNTTアーバンバリューサポートに入社した。都倉菜月はアーバンバリューサポートが始めた新卒採用の1期生だが、栗本は2年後輩の3期生ということになる。
学生時代、栗本は社会学部でコミュニティデザインを学び、人が集うところに生まれる新しい価値に関心を寄せていた。授業で学ぶ以外にも、自らスタッフを集めてフリーペーパーを創刊し、大学内の情報はもとより周辺の店舗情報なども丹念に集め、有料広告まで載せて堂々としたコミュニティペーパーに育てた。それも人のつながりのハブになりたいという思いからだった。
栗本には、忘れられない景色がある。大学進学のため福岡から上京したときに驚きとともに見上げた都心の巨大なビル群。就職を考え始めた頃、このビルの一つひとつに多くの人が集う“街”があり、それを維持する仕事があると知った。
「こうしたビルの誕生には開発という業務が先行するのでしょうが、私は竣工後にスタートするコミュニティづくりに関心がありました。不動産事業の中でも、その維持や価値向上に取り組むPM※という仕事があることを知って、それをやってみたいと思ったんです。中でもNTTアーバンバリューサポートはオフィスだけでなく商業施設などいろいろな建物の管理を行っているし、NTTグループならではのICT活用の強みは、これからの管理業務を大きく変えていく力になるはずです。ぜひ入りたいと思いました」。
栗本の熱意は通じた。晴れてNTTアーバンバリューサポートの一員となり、新人研修を終えた6月、首都圏第一事業部で大手町プレイス営業所(旧大手町プレイス管理事務所)に配属となった。2年前に都倉が着任した部署だ。
「大手町プレイスは自分がPMという仕事を知り、志すきっかけになった建物のひとつです。当社の管理物件の中でも最大規模であり、入居されているのは誰でも名前を知っているトップ企業ばかりです。まさかそこに、しかも新入社員の身で配属になるとは思ってもいませんでした。自分で務まるのかという不安がありましたが、学ぶこともそれだけ多いはずです。与えられたチャンスに感謝して、それを活かそうと思いました」。
栗本はまず、ウエストタワーに入居する1テナントを担当。最初の2カ月はトレーナーの下で、その後は主担当者として業務に就いた。そして防災、省エネ、設備、低層部の商業施設を管轄する商業チームとの調整など、徐々に担当業務を増やしていった。
「もちろんわからないことだらけです。とにかく聞いたり調べたり、一つひとつ解決していくしかありませんでした。当初はお客様から要望されたことへのレスポンスに時間がかかってしまうこともありました。しかしそのときも、自分が今どう動いているのかをお客様にしっかりお伝えして信頼関係を維持し、むしろ深めていくきっかけにしようと思っていました」。
1年目の後半に入ると栗本はウエストタワー低層部のデータセンターも担当することになり、さらに地権者を担当するグループにも加わった。ここには都倉がいた。
「都倉さんはわずか2年違いとは思えないほど、一つひとつの業務を落ち着いて担い、お客様への応対も丁寧でした。地権者様との対応は管理規約をしっかりと頭に入れておかなければできません。都倉さんはその内容も完璧に把握していて『その問題は規約の何条何項に関連しているから目を通しておいた方がいいよ』といったアドバイスをくれました。その後異動されたので一緒に仕事をした期間は短いのですが、仕事に臨む姿勢を始め学んだことはとても多かったですね」。その後栗本は清掃を担う協力会社の担当も任され、2年目へと順調にステップを踏んでいった。
※PM:プロパティマネジメントの略称。不動産オーナーに代わって不動産価値の維持向上をめざしてその管理・運営を進めること
2人の仲間
小澤優佳は大手町プレイス営業所に栗本より1年早く着任した2020年入社の新卒2期生である。工学部で建築を学んできたこともあり、就職も建築に関連するさまざまな企業を見ていた。しかし、設計の仕事に就きたいとは思っていなかったという。
「そもそも今はスクラップ&ビルドで建物をどんどん更新していく時代ではないと思っていました。それからもうひとつ考えていたのは、設計者の思いばかりが先行し、実際には使いにくい建物が少なくないということです。今建築が果たすべきは、利用者に寄り添い、管理や運営を通して快適な環境を創造し続け建物を永く使っていくことではないか。学んできた建築の知識はそのために活かしたいと思って不動産管理に携わる会社を探し、NTTアーバンバリューサポートに出会いました。NTTグループであることに魅力を感じたのは、これからは間違いなくICTを駆使した不動産管理が必要になると思ったからです」。
栗本がそうだったように、小澤も最初の配属が大手町プレイスであったことには驚いたという。これだけの規模の、しかも開業間もない建物だ。失敗は許されないという緊張感があった。しかし栗本同様に小澤も、だからこそ学ぶものは大きい、自分の成長の舞台として不足はないと奮い立つような思いがあった。
小澤はイーストタワーのオーナー関連業務やテナント対応業務を、1年先輩の都倉と一緒に担った。
「ほぼ1年間、都倉さんに付いて仕事を覚えていきました。都倉さんは業務に習熟していて、お客様への対応にも落ち着きがあり堂々としている。最初は私がお客様に向け発信するメールの文面も細かく見てもらいました。あるとき、館内業務を委託している協力会社から送られてきた資料をテナント様に送ろうとしたら、こことここはチェックしてから送った方がいい、というアドバイスをもらいました。その理由も丁寧に教えてもらって、本当に学ぶことばかりでした」。
その後小澤はイーストタワーで自らが担当するテナントを1社から4社に拡大、さらにテナントへの商材提案も担うなど担当業務の幅を拡げた。3年目となる2022年には、都倉の異動に伴って都倉が担っていたイーストタワーのオーナー業務を引き継いだ。
やがて2022年春、都倉と入れ替わるように森野絵美子が新卒1年目の社員として大手町プレイス営業所に着任した。
小澤 優佳
2020年入社
工学部建築デザイン学科 卒業
森野 絵美子
2022年入社
社会科学部社会科学科 卒業
森野は建築を学んだわけではないが、“空間”が好きだった。自分の好きな空間の中にいるだけで心地良い刺激が得られ、「ちょっと大げさな言い方かもしれませんが、生きる勇気をもらうことができます」と語る。だから森野はいつか自分の手で誰かの気持ちを高めるような空間を提供したいと思っていた。就職先としてデベロッパーを検討したのはそのためだ。コロナ禍のまっただ中でなかなか思うように進まない就活だったが、デベロッパーを訪ねる中でPMという仕事とそれを専門に担う不動産管理会社が存在することを知り、迷わずに志望した。空間の魅力はそれが竣工したときではなく、そこに人がかかわり、人の思いが積み重なることによって深まっていくと森野は思っている。建物の価値を使う人とともに高めていくというのは素晴らしい仕事だと思った。
「開発の方が華があるように見えるかもしれませんが、私にはPMが合っていると思いました。いくつか見た会社の中で当社の大手町プレイスは私の好きな建物でしたし、社員のみなさんの穏やかな人柄に惹かれて入社を決断しました」。
その憧れの建物の管理が最初の仕事場になった。「素直にうれしかった」と森野は言う。森野はイーストタワーに入居するあるテナントの担当から仕事を始めた。トレーナーとして2年先輩の小澤が付いた。
まずは請求書や作業通知書の作成と送付、その他の毎月のルーティン業務を担った。「撮影対応業務」も森野の仕事になった。以前は都倉が担当していた業務だ。どのビルにも当たり前にある仕事ではない。大手町プレイスは逓信総合博物館や旧東京国際郵便局の跡地に建設されたもので、「逓信建築」と呼ばれた伝統的な深い水平の庇や丸柱など、かつての建築物の設計思想とデザインを巧みに取り入れている。最新の機能を備えた超高層建築でありながら、伝統を引き継ぐ美しい建物となっているのだった。そのためテレビ各局からドラマなどのロケに使いたいと申し込みが相次いだ。建物利用者の快適性や安全性は第一に担保されなければならないが、建物の認知度向上という点からは入居テナントにとってもメリットがある。そのためNTTアーバンバリューサポートとしても地権者の同意の下に詳細なルールを定めたうえで受け入れることにした。日程調整から諸注意の徹底、当日のタイムテーブルの決定や立ち会いまで「撮影対応業務担当」として必要になる業務を都倉が洗い出し、詳細なマニュアルとしてまとめた。異動直前の都倉から森野がひきついで、今すべてを管理している。
入社2年目の栗本、その1年先輩の小澤、入社間もない新人森野――都倉に続きNTTアーバンバリューサポートとして新卒採用された若手社員たちが、それぞれにPMへの思いを抱いて大手町プレイス営業所に着任していた。そして2022年4月、3人は新たに設けられたエリアマネジメントチームに集結、力を合わせることになった。
賑わいの創出へ
2年目を迎えた栗本は、従来の1テナントの担当に加え2社目となる担当をもった。さらに7月、大手町プレイス営業所の所長の発案で新たに営業所内に「エリアマネジメントチーム」がつくられることになり、栗本にも声がかかった。若手中心のチームにしたいという所長の意向で、入社間もない森野も加わり、チームリーダーには3年目の小澤が指名された。さらにもう一人、NTT都市開発からの出向メンバーも加わった。栗本と同期の入社2年目の社員だ。
若手ばかりのフレッシュなチームが誕生した。入社のときから、人と人のつながりが新しい価値を生むと考え、コミュニティづくりに人一倍関心があった栗本は、新たなチームの始動を楽しみにしていた。
「企画をゼロからつくりあげていくので自由度は高く、所長からも若手ならではの視点を大切にしてどんどんアイデアを出していけといわれていました。メンバーは若手ばかりで遠慮するような人もいない。おもしろくなると思いました」。
もともと大手町プレイスには「めざすのは、人・街・社会がつながり、交差する、次世代の都市モデル」というコンセプトがある。それを体現するような施策でなければいけないと、最初の打合せから議論は盛り上がった。
「まず他の施設でどんなエリアマネジメントが行われているのか、それを学ぶことから始めました」と栗本。1年生メンバーの森野もチームメンバーとして思いの丈を語った。語りやすかったという。
「年次の近い若手メンバーだけなので先輩後輩といったことも意識せずにフラットな関係で意見をぶつけ合いました。若手チームといっても、最後は年次の高い人がチームをまとめるというのが一般的だと思いますが、このチームは本当に若手だけでした。私は遠慮なくいいたいことをいって、栗本さんはイベントに詳しく、小澤さんは建築に関する知識が深いだけでなく、リーダーとして議論を整理したり、会議をうまくまとめていってくれた。すごくいいチームです」。
若手チームの献身
小澤も3年目として担うさまざまなPMの業務と並行して、エリアマネジメントチームを引っ張っていた。その中で大きな検討課題として浮上したのが、NTT都市開発1社がオーナーである建物と、複数の地権者が区分所有している大手町プレイスでは、エリアマネジメントの進め方が異なってくるということだった。地権者の中には、賑わい創出は建物内に求めるもので、建物を超えた街とのつながりを求めた賑わいまでは求める必要はないのではないか、費用をかけることに意味があるのだろうか、といったお考え方もあることがわかってきた。「私たち自身が、大手町プレイスが何を目的にどのようなイベントに取り組むべきか、地権者の想いをどのようにしてカタチにするか、その検討が必要でした」と小澤は語る。
「地権者の皆さまにぜひ街とつながる賑わい創出に取り組んでいこうと思っていただかなくてはなりません。費用を拠出するのは地権者です。建物の認知度向上、公開空地の活用、地域拠点としての社会的責任、という3つを活動の目的として明確化したうえで、さまざまな取り組みを提案していきました。チーム内の議論は毎回盛り上がりました。栗本さんにはエリアマネジメントについての深い思いがあり、イベントのアイデアも豊富です。細かいところへの気づきもある。森野さんも堂々とそして積極的に自分の意見を発言してくれました」。
議論を積み重ねる中から「リフレッシュヨガ」「アフター6シネマイベント」「フリートークイベント“大手町を面白がる会”」などが企画され順次開催されていった。毎回定員を超える申し込みがあり、地権者もこうした活動を評価、従来は開催の都度ご承諾いただいていた準備費用を、賑わい創出のための事務局固定費として計上してもらうこともできた。「イベントの手応えは大きなものがあった」と栗本も語る。
「通常のサービスとは異なり、エリアマネジメントとして行うイベントは、お客様が自分の意思で参加して楽しんでくださるものです。開催後にメールでありがとうというメッセージを寄せてくださる方もいました。自分たちが企画して準備したものに共感してくれ積極的に楽しんでくださる方がたくさんいるとわかって、うれしかったし勇気をもらいました。“街”の人々とともに進める賑わいの創出は、確実に前に進んでいると思います」。
働く人、集う人が安心して心地良く過ごせる大手町プレイスであり続けるように、その空間で過ごす時間が一人ひとりの人生にとって価値あるものになるように、エリアマネジメントチームは若手同士で切磋琢磨しながら、さまざまな企画の検討を続けている。その姿が表に見えることは少ない。しかし彼らの取り組みや献身がなければ巨大な“街”がその価値を発揮し続けることはできない。PMという仕事を誇りにチームはさらに前に進む。
【大手町プレイスの賑わい創出】
大手町と神田、人とそのときをつなぐ場所、大手町プレイスは、「地域の魅力発見」「新しい出会い」「明日への活力」へつながる場の創造をめざしている。その一環として、大手町プレイス内の企業や周辺地域の人々の新たな出会い・発見につながるようなさまざまなイベントを展開し楽しんでもらうことで、明日の生活への活力にしてもらいたいと考えている。イベントは大手町プレイスのワーカーにとどまらず誰でも参加が可能だ。